デジタルトランスフォーメーション(DX)が生活の隅々まで浸透した今、生活者の意識に静かだが決定的な変化が起きています。博報堂生活総合研究所が発表した「2026年の生活者潮流」は、これまでの「効率・利便性・失敗しない消費」を是としてきたマーケティングの前提を覆す、重要な示唆を含んでいます。
本記事では、このレポートを読み解き、今後のマーケティング戦略に不可欠な「3つの転換視点」を解説します。
1. 潮流の変化:レビュー社会への疲れと「逆張り」消費
この数年間、私たちは「失敗しないこと」を最優先してきました。レビューサイトの星の数、インフルエンサーの推奨、アルゴリズムが導き出す「おすすめ」——これら「みんなの最適解」に従えば、無難で効率的な選択ができました。
しかし2026年に向けて、この流れに揺り戻しが来ています。デジタル化により選択肢は増えたものの、それは「他人の評価」に自分の行動を委ねることであり、結果として「自分自身の主体性が損なわれている」という閉塞感を多くの人が感じ始めています。
現れている兆候
- あえての「低評価」来店:レビュースコアが低くても、自分の感性に触れる店にあえて行ってみる
- 「反向(逆張り)」行動:ハイシーズンや人気スポットを避け、マイナーな場所やオフシーズンを選ぶ(中国の「反向旅行」など)
- アナログへの回帰:デジタルデータには残らない「努力の痕跡(ボロボロの単語帳など)」や「愛着」を可視化できる物理的なモノへの再評価
【戦略への示唆】
「高評価・高効率」だけを訴求するマーケティングは飽和します。これからは、生活者が自ら発見し、選び取る「試行錯誤のプロセス」自体を価値として提示できるかが鍵となります。
2. 企業に求められる「3つの提供価値」
生活者が「自分だけの正解」を求め始めたとき、企業は「正しさ(客観的スペック)」を押し付ける存在から、「感情(主観的納得)」を支援する存在へと変わる必要があります。レポートでは以下の3つのアプローチが提唱されています。
① 客観的評価より「味方」のスタンスを
「これがランキング1位です(だからあなたも買いなさい)」というアプローチは、もはや圧力になり得ます。必要なのは、「あなたはこうしたいですよね、それでいいんですよ」という肯定のアプローチです。
例えば、「頑張らなくてもいい習慣化」のように、等身大の欲求に寄り添い、その選択を正当化してくれるブランドが選ばれます。
② アルゴリズムではなく「運命の出会い」を設計する
ワンクリックで翌日に届く利便性は当たり前になりました。その反動として、簡単に手に入らないもの、偶然出会ったものに対する価値が高まっています。
マーケターは、効率的なコンバージョン動線だけでなく、生活者が「自分で見つけた」と感じられるストーリーや、商品との「ご縁」を感じさせる体験プロセスを意図的に設計する必要があります。
③ 感情を深める「余白」を作る
SNSのタイムラインは高速で流れ、他人の感想が自分の感情を上書きしていきます。これに対し、コンテンツとじっくり向き合い、自分の感情を醸成できる「時間的・空間的な余白」を提供することが重要です。
即時的な反応を求めるのではなく、沈殿した深い感情こそが、強力なブランドロイヤリティを生み出します。
3. 次なる課題:「感情の低表出化」社会への対抗策
さらに先を見据えたとき、看過できないのが「感情の低表出化」という社会課題です。「炎上回避」や「タイパ(タイムパフォーマンス)」重視のあまり、人々は感情を表に出すことをリスクやコストと捉え始めています。
しかし、ビジネスにおいて「感情」こそが購買意欲の源泉です。感情が動かなければ、モノは売れません。
今後のマーケティングでは、この「閉じ込められた感情」をいかに安全に、かつポジティブに解放させるかが大きなテーマとなります。
- 安心して感情を出せるクローズドなコミュニティの形成
- 「言葉にできない感情」を代弁あるいは形にしてあげるサービス
- 効率性(コスパ・タイパ)とは別軸の「エモパ(エモーショナルパフォーマンス)」という新しい価値基準の提唱
これらが、次世代の差別化要因となっていくでしょう。
まとめ:マーケターが明日から意識すべきこと
「みんなが良いと言っているから良い」という時代は終わりを迎えつつあります。
これからの戦略会議では、以下の問いを投げかけてみてください。
- 我々の商品は、レビューの点数以外で「選ぶ理由」を語れるか?
- 顧客に対し「最短距離」だけでなく、「愛着が湧く回り道」を用意できているか?
- 顧客が「自分の感性は間違っていない」と思えるようなメッセージを発信しているか?
2026年、勝者となるのは、ビッグデータが導く「正解」を提示する企業ではなく、生活者一人ひとりの「納得」を作り出せる企業です。













