「将来を予測する最良の方法は、それを創ることだ」——ピーター・ドラッカーの言葉は有名ですが、未来を創るためにも、確度の高い「人口動態」や「技術ロードマップ」といった前提条件を押さえておくことは不可欠です。
野村総合研究所(NRI)が発表した最新のレポート「NRI未来年表 2025-2100」は、政治・経済・社会・技術の広範な領域にわたる予測イベントを網羅した、まさにビジネスパーソンのための「未来の地図」です。
本記事では、この膨大なデータの中から、経営者やマーケターが特に注視すべき「4つの注目テーマ」と「年代別の重要マイルストーン」をピックアップして解説します。
1. ビジネスチャンスを変える「4つの注目テーマ」
NRIは今回の年表で、特に注目すべき4つのテーマをコラムとして挙げています。これらは今後の新規事業開発やブランディングにおいて重要なキーワードとなります。
① AI開発のボトルネックを解消する「シンセティックデータ」
生成AIの進化に伴い、学習データの「量」と「質」の確保が限界を迎えつつあります。そこで注目されているのが、AI自身がシミュレーションなどで作り出す「シンセティックデータ(合成データ)」です。
ビジネスへの示唆:個人情報保護の壁をクリアし、偏りのない学習データを無限に生成できるため、AI活用を検討する際、データの「収集」だけでなく「生成」という視点を持つことで、開発スピードと精度を劇的に向上できる可能性があります。すでに米国の金融機関では不正検知の学習に、マイクロソフトは言語モデルの学習に活用しています。
② 消費者の意識を変える「備えない防災(フェーズフリー)」
「防災用品」という特別なカテゴリーが消滅するかもしれません。「備えない防災」とは、日常的に使っているものを災害時にも役立てるという考え方です。
具体例:普段食べている食品を回転させる「ローリングストック」や、普段は椅子として使い災害時はトイレになる家具など。
ビジネスへの示唆:商品開発において「非常時にも使える」という視点(フェーズフリー)を組み込むことが、消費者の選定基準における強力な差別化要因になります。
③ デジタルが生む新たな顧客層「関係人口」
人口減少時代、定住人口の奪い合いはゼロサムゲームです。しかし、デジタル技術を活用した「関係人口」(移住はしないが、地域と多様に関わる人々)は無限に創出できます。
進化の形:これまでの観光やふるさと納税に加え、NFTによる「デジタル住民票」や「地方創生DAO」など、オンライン上のコミュニティが地域経済の実質的な担い手になり始めています。
ビジネスへの示唆:ターゲットを「居住者」に限定せず、デジタル上で深く関与してくれるファンベースをどう構築し、マネタイズするかという視点が求められます。
④ 「森林カーボンクレジット」の地産地消
カーボンニュートラルに向けた動きの中で、森林由来のクレジット(J-クレジットなど)が注目されていますが、単なるCO2オフセットの手段にとどまりません。
ビジネスへの示唆:森林整備への投資は、生物多様性保全や災害防止といったSDGs文脈での企業価値向上に直結します。クレジット購入を「コスト」ではなく「ブランディング投資」と捉える視点が重要です。
2. 年代別・経営ロードマップ(2025-2100)
ここからは、NRIの予測データをもとに、短期・中期・長期の視点で経営上のマイルストーンを整理します。
【短期】2025年~2029年:デジタル実装と労働力不足への対処
この5年間は、社会制度の変更と技術の実装が一気に進む「変革の実行期」です。
2025年:
- 大阪・関西万博開催。日本の技術力を世界に示す機会
- 団塊の世代が75歳以上となり、医療・介護需要が急増(2025年問題)
- キャッシュレス決済比率が4割程度に到達(2017年の倍)
- 民間企業の男性育休取得率目標が50%に設定され、働き方改革が加速
2026-2027年:
- デジタル人材が230万人規模へ。DX推進の内製化が企業の競争力を左右
- NFT市場規模が急拡大
▶ 経営者・マーケターのアクション:労働人口減少を前提とし、DXによる省人化と、多様な人材(女性、シニア、外国人)が活躍できる人事制度への刷新を2030年までに完了させる必要があります。
【中期】2030年~2049年:産業構造の転換と多死社会
2030年(重要な分岐点):
- SDGsの達成期限。企業のサステナビリティ対応が「評価」から「選別」の基準へ
- 6G(Beyond 5G)の導入開始。通信環境の激変により、メタバースや自動運転の実用化が進む
- 女性役員比率30%(プライム市場)がスタンダードに
- 水素市場やサーキュラーエコノミーが巨大産業化
2035年:
- 世界の新車販売におけるEV比率が50%超へ(欧州・中国などが牽引)。自動車産業のサプライチェーンが激変
- 日本の生産年齢人口が7,000万人を割り込む。人手不足は「経営課題」から「事業継続の危機」へ
2040年:
- 高齢者人口がピークに達し、年間死亡数が約167万人で最多となる「多死社会」へ
- 単独世帯(一人暮らし)が全世帯の約4割に達する。家族向け商品の市場縮小と、個食・孤立対策サービスの需要増
- FIT(固定価格買取制度)終了に伴い、太陽光発電ビジネスが転換期を迎える
▶ 経営者・マーケターのアクション:国内市場の縮小を見据え、海外市場への進出を本格化するか、国内の「高齢者・単身者」特化型サービスへピボットするかの決断が迫られます。
【長期】2050年~2100年:人口減少社会のニューノーマル
2050年:
- カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)の達成目標年
- 日本の総人口が1億人を割り込む可能性(約9,965万人〜1億469万人と予測幅あり)
2080年代以降:
- 世界人口もピークアウトへ向かう兆し(2080年代に約103億人でピーク)
- 日本を含む先進国では、超高齢化と人口減少が定常状態となり、「成長」よりも「持続可能性」と「生活の質」を重視した経済モデルへの完全移行が求められる
編集後記:未来予測をどう使うか
NRIの未来年表が示すのは、確定した未来ではなく「高い確率で起こりうる変化」です。特に人口動態は確度が高く、ここから目を背けることはできません。一方で、技術の進化(AIやシンセティックデータなど)や社会の価値観(フェーズフリーや関係人口)は、企業の取り組み次第で市場を創造できる領域です。
「2030年に自社はどうあるべきか?」この問いに対する答えを出すために、本レポートの予測データをバックキャスティング(逆算)の材料として活用してみてはいかがでしょうか。












